上野屋の蒲鉾ができるまで

和江の漁法

上野屋のかまぼこ作りは、地元和江港での魚の買い付けから始まります。

かまぼこの原料となるのは、トラハゼ、レンコ鯛、カナガシラなどの白身の魚やアジ、アゴ、などの青魚です。トラハゼやレンコ鯛は地元和江港の小型底引き網漁船によって港に水揚げされます。小型底引き網漁業は、簡単に言えば、「カゴのような網を船で引っ張って魚を獲る」漁法です。海底まで網を入れるので、ヒラメやカレイ、タイなども獲れます。魚群を狙って網を入れる漁業とは異なり、獲れる魚の種類がケタ外れに多いのが特徴です。島根県の小型底引き網の漁場は、大社町沖から益田市沖辺りの海域で、他の沿岸漁業同様、日帰りできる港から1~2時間程度の場所です。

ここ、和江の小型底引き網漁業は、9トンまたは14トンという小さな船で行われています。

早朝2時頃、港を出港し漁場までは約2時間弱。日の出と同時に網を海へ投げ入れ、ぐいぐい・・・と船で引いていきます。最初の網を、日の出と同時に投げ入れるのが、この漁の基本となっているのですが、日の出の時間は季節により多少の変動があり、冬場はやや遅く出て、春と秋は、やや早く出漁することになります。夏場(6~8月)は小型底引き網漁が禁漁期間なので漁は休みです。おおよそ1時間ほど引いたら網を引き揚げ、かかった魚を網から出します。そしてまた、網を投げ入れて引く。ということを繰り返し、引いている間に揚がった魚を選別していきます。この投網、引き網、揚網という作業を、だいたい6~7回繰り返すと1日の漁は終了します。こうして1日の漁を終え、港に帰るのはその日の夕方の5時頃になります。

冷凍すり身を作る

(1)頭落とし

ヘッドカッターという機械で魚の頭を落とします。ベルトコンベアに魚を乗せると、カッターが頭と体を切り離します。

切り離された魚の頭と体は別々に集められます。

(2)洗い

頭を落とされた魚の体を魚洗機で洗います。ここで魚に残っているうろこと内臓を洗い流すのですが、魚の鮮度や魚種、取れる季節によってうろこと内臓の取れ具合も変わってきます。洗い過ぎると魚の身が傷み、うろこや内臓だけではなく身まで洗い流されるので注意しながら洗います。

落とした頭や内臓、うろこなどは捨てずに、肥料屋さんに引き取ってもらっています。肥料にしてもらうことで、何ひとつ無駄にしないよう心がけています。

(3)採肉

洗い終えた魚を採肉機に入れて身を取ります。魚を潰して骨と皮を残して身を取るのですが、加える圧力で取れる身も変わってきます。圧力をかけ過ぎないように、上身の上品な身が取れるように魚の種類や大きさで圧力を調節します。

(4)水晒し(みずさらし)

水晒し(みずさらし)、読んで字のごとくですが、潰した身を水で晒す作業です。大きなバケツに潰した魚の身と、魚の身の何倍もの水を入れてかき混ぜます。そして、バケツの中が落ち着くまで待って、バケツを傾けて水をゆっくりと流します。すると、バケツの中には晒された魚の身が残ります。この作業をかまぼこ屋さんでは『水晒し』と呼んでいます。

『魚の身を水で晒す』、と聞いて驚かれる方も多いと思います。ご家庭でそんな料理はありませんよね。でも、この『水晒し』ほどかまぼこを語る上ではずせない作業はありません。 それは、水晒しがかまぼこ独特の弾力と白さ、すり身にしたときの冷凍保管に関係するからです。

みなさんは魚の体がどんな成分で出来ているのかご存知でしょうか?簡単に言えば血と骨と身です。そしてかまぼこ作りに必要なのは魚の身の部分です。

魚の身をさらに詳しく分けると、筋肉(タンパク質)、脂肪、スジなどから出来ています。そして、

かまぼこ独特のプリプリ、しこしこの弾力は魚の筋肉(タンパク質)が作り出します。かまぼこ造りの要!水さらし これは奥が深い・・・ではここで、話しを水晒しに戻します。『水晒し』ですが、なんと大正時代以前のかまぼこ屋さんでは行なっていなかったそうです。それでは、なぜ水晒しを行なうようになったのでしょうか?

それは、鮮度の落ちた魚の臭いをとるために始まったそうです。まだまだ氷が高価で漁船の冷蔵設備、陸上での運搬設備が整っていない時代でしたので、時期によっては魚が傷み、臭いをもつことがありました。

そこで、魚の身を軽く水に流す程度に晒して臭いをとっていたそうです。

その後の研究の結果、水晒しをすることでかまぼこの弾力を作るタンパク質が残ることも分かりました。

魚の身を水の中でかき混ぜるので、水の中で筋肉(タンパク質)と脂肪などが分離され脂肪は水面に浮かび上がります。脂肪はすり身を冷凍保管する上で劣化の原因となるので、脂肪が取り除かれることは魚の身の品質を保って長く冷凍保管出来ることにつながります。

ですので、水晒しをすればするだけ、かまぼこに強い弾力を生み、さらに長く冷凍保管できる魚の身(タンパク質)が残ることになります。

おまけに魚の身を洗うわけですから色もどんどん白くなります。

というわけで、元々魚の臭いをとるために始まった水晒しは、今ではかまぼこに強い弾力を持たせるため、長期の冷凍保存性をすり身に持たせるためにかまぼこ屋さんで行なわれるようになりました。でも、水晒しを何度も繰り返すと魚の旨みや風味も洗い流されるので、味のしない、弾力が強いだけのかまぼこになってしまいます。それは、本当に旨いかまぼこなのでしょうか?

上野屋は、それが本当に旨いかまぼこだとは思いません。

かまぼことは、やはり魚の風味と旨みがあってなんぼのもんです。そして、かまぼこの弾力とは堅すぎず適当な柔らかさがあって初めて、魚の風味、旨みを感じられる歯応えとなり、のど越しとなって体が感じます。

毎日毎日、自分が作ったかまぼこを食べ続けてきたから気づいたのですが、同じ材料でかまぼこを作っても出来上がったかまぼこの弾力が違えば味が変わってきます。それで学んだのが、「歯ごたえ、のど越しの違いでかまぼこの味が変わる。」という上野屋のかまぼこ哲学です。

上野屋の作りたい、みなさんに食べていただきたいかまぼことは、しなやかで優しい歯ごたえと気持ちの良いのど越しから、魚の風味と旨みを体が感じるかまぼこです。それは魚の風味のしない弾力だけのかまぼこが当たり前となった業界に、時代に逆らうものです。けれども、これが上野屋のかまぼこ作りです。

それでは、ここからは上野屋で行なっている『水晒し』をお話します。

上野屋では自家製すり身に魚の風味と旨みを残すために、水晒しで入れる水の量を減らして、晒しの回数も1回しか行なっておりません。

最初に説明させて頂きましたが、上野屋で使う魚は地元、和江港で水揚げされた鮮度抜群の魚です。もちろん傷んだ魚の嫌な匂いはありません。そして、魚の活きが良ければかまぼこにしたときに決して堅すぎないしなやかな弾力が生まれます。上野屋で原料とするトラハゼやレンコ鯛は9~12月にかけて脂がのって、身も締まってきます。夏に揚がるアジやアゴは独特の風味がします。

魚の種類、時期、鮮度によって変わる身の微妙な違いを、工場長が晒した身を手にとって、バケツをかきまぜる竹棒から感じながら晒しの按配(あんばい)を決めていきます。

(5)脱水

水晒しを終えた魚の身は多くの水分を含んでいますので、脱水機に身を入れて水分を絞ります。この脱水作業にも微妙な按配(あんばい)があります。それは、魚の身の絞り具合です。魚の身に水分が多く残れば、それだけすり身にしたときに柔らかなものになりますし、冷凍保管する間にすり身が傷んでしまいます。逆に絞りすぎるとせっかくの魚の旨みを含んだエキスを逃がすことになります。

また、ここでも魚の種類、時期、鮮度が関係してきます。鮮度や獲れた時期によって魚の身の持つ力強さは大きく変わります。簡単にいえば鮮度が良く、その魚の旬(産卵前)であれば、かまぼこにするとしなやか弾力となります(かまぼこに適した魚の場合です)。

けれど、鮮度が悪く、産卵後の魚の身ではしなやかな弾力を作り出せません。そこで、上野屋では魚の鮮度や取れた時期が良ければ、脱水で軽く身を絞って魚のエキスを身に十分残します。そして、旬を過ぎた魚であれば絞りをきつくして水分をとり、水分比率の低い身に絞っていきます。こうすることで、エキスの多いしなやかすり身と、水分比率の低い締まったすり身というように使う用途を意識したすり身を作っています。

(6)ミンチ

ここまでの作業では、まだ魚の身の中に小骨やウロコなどがいくらか残っています。そこで、晒して絞った魚の身を次にミンチにします。ミンチにすることで魚の身(繊維)を切り、きめ細かくしていきます。さらに上野屋がかまぼことして使っているトラハゼはスジが多い魚ですので、ミンチにかけることでこのスジも細かくされます。スジが残ったままだとかまぼこになったときの食感がよくありません。また、ウロコなどの堅くミンチに出来ないものは機械の途中に残るため、ミンチとなって出てくることはありません。

(7)擂り(すり)

ミンチになった魚の身を石臼で擂ります。この作業をかまぼこ屋さんでは『擂潰(らいかい)』 と呼んでいます。石臼に魚の身と塩、糖類を入れて約10分間擂ります。ここで、塩と糖類を入れるのは冷凍保管している間にすり身の劣化(傷むこと)を防ぐためです。魚の身をそのまま冷凍するとパサパサになってしまいます。これではかまぼこ独特の弾力は作り出せません。塩や砂糖はこのパサパサになる変化から守ってくれます。

(8)凍結

石臼で擂り終えてやっと出来上がった『すり身』を“ばんじゅう(アルミの型箱です)”に入れ、5Kgずつの板状にします。そのままマイナス30℃の冷凍庫で一日冷凍します。翌日、冷凍されたすり身を “ばんじゅう”から出して、ダンボール箱に詰め直して、またマイナス30℃の冷凍庫に入れて冷凍保管します。

このようにして上野屋では、和江港で水揚げされた新鮮な魚を使って自家製の冷凍すり身を作っています。

かまぼこを作る

(1)冷凍すり身の解凍

上野屋では、自家製すり身とスケソウタラとミナミタラの冷凍すり身を使ってかまぼこを作っています。自家製すり身もタラのすり身も冷凍保管されていますので、まずは解凍します。冷凍すり身をマイナス30℃の冷凍庫から出して保管庫(5℃前後に温度調整された大きな冷蔵庫)に入れて解凍します。だいたい作業前日の午後から出して半日間置きます。翌朝のすり身温度がマイナス3℃からマイナス2.5℃になるように、翌日の気温や使うすり身によって微妙に解凍時間を調整しています。

(2)空擂り(からずり)

いよいよ、かまぼこ作りです。上野屋では解凍されたすり身をサイレントカッターという大きなフードカッターで擂っていきます。最初の作業を空擂り(からずり)と呼び、まだ氷温下にあるすり身を切り刻んで温度を上げて、すり身自体を馴染ませます。

(3)塩擂り(しおずり)

すり身が馴染んで、温度が上がるとすり身に塩を振ります。この作業をかまぼこ屋さんでは塩擂り(しおずり)と呼び、かまぼこ作りにおいてもっとも難しい作業といわれています。

なにが難しいかといえば、塩を入れるタイミングです。

サイレントカッター(もしくは石臼)で擂られて、すり身は時間を追う毎に変化しています。温度が上がり、すり身は練られ、肉質も変化していきます。このすり身の微妙な変化を目と手触りで感じて、塩を振ります。

工場長の経験では塩振りのタイミングが早ければ、すり身は柔らかくなりかまぼこにしてもあまり弾力を感じない製品となり、塩振りが遅くなれば堅いかまぼことなります。

この塩擂りで、上野屋の求めるしなやかで優しい歯ごたえと気持ちの良いのど越しを感じるかまぼこの弾力となるように、タイミングを計って塩を振ります。

しかし、上野屋では自家製のすり身に使う魚は数種類もありますし、魚の種類や時期で自家製すり身の仕上げ(身の締まり具合)を変えていますので、毎日同じすり身(均一な素材)でかまぼこを作っているわけではありません。

ですので、自家製すり身の魚の種類、時期、仕上がり、そして他のタラのすり身との配合具合を考えて塩振りのタイミングを変えています。具体的にいいますと、マイナス2.0℃からマイナス1..までの0.1℃単位の変化を温度計を見て、すり身を触って工場長が判断します。そして、この塩を入れた瞬間からが、うまいかまぼこができるかどうかの勝負なんです。

(4)水伸ばし(みずのばし)

塩を振ったすり身に変化が起こるのを目で確認して、さらに手触りで粘りの按配(あんばい)を確かめたらここで氷を入れます。さきほど、塩擂りがかまぼこ屋さんにとって一番難しい作業と書きましたがそれはかまぼこ業界の一般論であって、上野屋が、工場長が一番苦労したのはここからの作業です。それが水伸ばしです。

水伸ばしとは、すり身に水分を加えていく作業のことです。すり身に塩を入れて擂ればかまぼこが出来上がりますが、このままでは堅いすり身に練り上がり、かまぼこが出来ても堅い商品になります。そこで、水もしくは氷を加えて適度な柔らかさをすり身にもたせるのですが、ただ入れれば良いというものではありません。さきほど、工場長が一番苦労したのがこの水晒しだと書きました。

それは、母親に代わってかまぼこを作り始めて間もないころ、この水伸ばしのタイミングや加える量などが全然分からなかったからです。同じ材料を使って、塩摺り(塩入れ)のタイミングも毎日変えなかったのに、擂り続けるとあるポイントを境にすり身が表情を変えていく。すり身が艶やかに輝くかと思えば、艶を失い、粘りもなくなることがありました。すり身に艶があると、手にすると搗きたてのお餅のような粘りを感じて、逆に艶を失うと、すり身には粘りも出てきません。すり身が艶やかで粘りをもったまま仕上がれば、適度な弾力のしなやかなかまぼこが出来上がりました。けれど、艶も粘りもないすり身ではかまぼこらしい弾力が生まれませんでした。

艶やかで粘りあるすり身に仕上げれば、しなやかなかまぼこが出来上がることは分かりました。では、どうすれば艶と粘りを失うのか?体得するまでの苦悩の日々・・・すり身も生き物なんですね・・・毎日の作業を振り返り、どこですり身の表情が変わっていくのかを考えると、ポイントは水や氷を入れる作業、水伸ばしでした。水や氷を入れるタイミングを間違えるとすり身は艶と粘りを失ってしまいます。

さらに一度艶と粘りを失ったすり身はその後いくら擂っても何をしても、艶と粘りを取り戻すことはありませんでした。ですから、水や氷を入れる瞬間を見極めることが大切だと意識するようになりました。このタイミングを文章で説明するのは難しいのですが、すり身を手にとって艶と粘りを確かめながらゆっくりと氷や水を入れていきます、すり身は非常にデリケートです。急激に温度が変化したり、大量の水分が加わると表情を変えてしまいます。だから、ゆっくりと、あせらずに面倒を看てあげます。すると、とびっきりの艶やかな表情で答えてくれます。

(5)調味料を入れる

続いて、調味料を入れていきます。ここでも先ほどの水伸ばしと同じく、すり身にゆっくりと、あせらずに調味料を入れていきます。少し入れては、すり身を手に取り、また入れては手に取って、温度が上がれば氷を入れて、ゆっくり、あせらずに練り上げます。

(6)仕上げ

サイレントカッターでゆくっり水と調味料を加えたすり身を、今度は石臼へ移して擂り上げます。石臼では冬は何も加えずに、夏場は氷を加えて温度がゆっくり上がっていくように擂り上げます。仕上がりのポイントは工場長の目と手です。工場長自身まだまだ勉強中ですが、最近になって少しずつ、艶と粘りで出来上がりのかまぼこを予想出来るようになりました。

このようにして、上野屋ではかまぼこの原料となるすり身を擂り上げています。擂り上がったすり身はちょっと寝かせます。5~10分くらい置いておくことで、続いての作業となる、スト(すまき)かまぼこ、野焼き、天ぷらの成型(かたち作り)が行ないやすくなるからです。

(7)成形

出来上がったすり身をスト(すまき)かまぼこを作る形成機に入れます。すり身がスト(すまき)かまぼこ一本ずつのサイズにカットされ、ストローに巻きつけられます。

転がり出てきたすまきかまぼこは、女性スタッフの手で手際よく輪ゴムを掛けられ台車に乗った枠に並べられます。ここでも、艶のチェックを行ないます。かまぼこの両端を見て艶やかに輝いていれば、すり身がうまく擂り上がった証拠です。

(8)加熱

そして、蒸し器の中へ入れて蒸します。

(9)冷却

蒸し器から出されたかまぼこは、冷却室の巨大扇風機で冷やします。そして、ここでも艶のチェックです。蒸し上がりのかまぼこは蒸気を帯びて艶やかなものですが、冷めても艶やかさを失っていないのかチェックします。ここでかまぼこに艶やかな輝きがあれば、間違いなく良いかまぼこです。

包装

冷やされたかまぼこは、次に包装室へ運ばれ、1本1本スタッフの手によって包装されていきます。

包装されたかまぼこは、1日寝かせておき翌日出荷します。なぜかというと、作り立てよりも1日位おいたほうが、塩角(しおかど)が取れてまろやかな口当たりになり、風味も増すため、さらに美味しくなるからです。真空用のかまぼこは、ストローを外してから、真空にします。ストローがもったいないようですが、すまきかまぼこ独特の模様を付けるためには必要なプロセスなのです。

そして空気抜きをした後、もう一度蒸し器に入れて再加熱します。お値段は同じなのですが、実は結構手間がかかっているのですよ。

こうして、市場に送り出された上野屋のかまぼこですが、賞味期限は、ストかまぼこ(すまきかまぼこ)が約1週間、真空かまぼこが約1ヶ月です。

あとがき

今回サイトを作るにあたって、自分が日々行なっている蒲鉾作りを振り返りました。そして、自分の蒲鉾作りを文章にしてみると、楽しい仕事をさせてもらっていると改めて感じました。

私はモノ作りが好きです。
何よりも蒲鉾作りが大好きです。

自分にとってはネットショップという新たな試みが、蒲鉾屋として一番大切な心意気を教えてくれました。

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